
数年前から認知症を患っていた義母ですが、最近になり「進行性核上性麻痺(PSP)」という指定難病であるとの診断を受けました。
現在も介護は続いていますが、まずは「ただの認知症ではないかもしれない」と気づき、診断に至るまでの経緯を記録しておきたいと思います。
認知症から進行性核上性麻痺への気づき
義母の介護が始まった当初、私たちはそれを「一般的な認知症」だと信じて疑いませんでした。物忘れや徘徊といった症状があり、家族もそれに合わせたケアを行っていたからです。
しかし、数年が経過した頃、これまでの認知症の経過とは違う「異変」が重なり始めました。
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動きの緩慢化と体重増加: 突然、動きが非常にゆっくりになり、それと同時に体重が増えていきました。
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歩行の変化(突進歩行): 散歩の後半になると、前のめりになって足が止まらなくなる「突進歩行」が見られるようになりました。
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独特な動作: 自分の手をぐるぐる回すような、それまでには見られなかった不思議な動作を繰り返すようになりました。
「認知症が進行して、身体能力も落ちてきたのだろうか」……そんな不安が頭をよぎりましたが、どうにも「単なる認知症」の一言では片付けられない違和感が残りました。
パーキンソン病ではなく進行性核上性麻痺の発見
あまりにも足元のふらつきやつまずき、散歩中の突進歩行がが多いため、私たちは「もしかしてパーキンソン病ではないか」という疑いを持ち始めました。
動作が鈍くなり、歩行が困難になる様子は、素人目にはパーキンソン病の症状とよく似ていたからです。そこで、まずは主治医に相談し、パーキンソン病の専門的な診察ができる病院への紹介状を書いていただくことにしました。
一刻も早く原因を知り、治療を始めたい。そんな思いで専門医の門を叩きました。
進行性核上性麻痺(PSP)の診断
精密検査の結果、医師から告げられたのは予想していた「パーキンソン病」ではなく、**「進行性核上性麻痺(PSP)」**という聞き慣れない病名でした。
この病気は指定難病の一つであり、パーキンソン病と似た症状を持ちながらも、進行のスピードや症状の現れ方が異なります。特に義母のように、初期に認知症のような症状が出たり、動きが悪くなることに加えてのが特徴だということを、この時初めて知りました。
パーキンソン病と進行性格上性麻痺の違い
| 項目 | パーキンソン病 | 進行性核上性麻痺 (PSP) |
| 主な動きの特徴 | 手足のふるえ(振戦)が目立つ。左右どちらかから始まることが多い。 | ふるえは少ない。 最初から左右差なく、体幹(軸)が固くなる。 |
| 歩行の様子 | 小刻みに歩く。前傾姿勢。 | 突進歩行。 首が後ろに反るような姿勢になりやすい。 |
| 転倒の傾向 | 病気が進んでから転倒が増える。 | 初期から転倒しやすい。 棒のように後ろにひっくり返るのが特徴。 |
| 目の動き | 特に大きな制限はない。 | 眼球運動障害。 特に「上下」に目を動かしにくくなる(注視麻痺)。 |
| 顔の表情 | 仮面様顔貌(表情が乏しくなる)。 | 常に驚いたような目つきや、険しい表情に見えることがある。 |
| 薬の効果 | レボドパなどの薬がよく効く。 | 薬が効きにくい。 効果があっても一時的であることが多い。 |
| 便秘・泌尿器 | 頑固な便秘になりやすい。尿が出にくい等の症状。 | 便秘も起こるが、パーキンソン病ほど早期・深刻ではないことが多い。 |
| 嚥下(飲み込み) | 徐々に飲み込みにくくなる。 | **初期から飲み込みにくさ(嚥下障害)**や、むせが出やすい。 |
| 認知面・精神面 | 後期に認知症を伴うことがある。 | 初期から認知症を併発しやすい。 思考の遅れや、感情抑制が効かず怒りっぽくなる。 |
**「突進歩行」や「動作の緩慢さ」は、PSPにおいて非常に特徴的です。また、内臓系(便秘など)についてはパーキンソン病の方が強く出やすい傾向にありますが、PSPは「飲み込みの悪さ」や「怒りっぽさ」**が早くから出やすいため、家族の精神的な負担がより重くなりやすいという側面があります。
義母の場合は怒りっぽい症状ではなく、無感情・無表情という傾向でした。
進行性核上性麻痺(PSP)において「感情麻痺(アパシー)」や「無表情」は非常に典型的な症状の一つです。
PSPは脳の「前頭葉」や「基底核」といった、意欲や感情を司る部分がダメージを受けます。そのため、以下のような変化がよく見られます。
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アパシー(自発性の低下): 喜怒哀楽が乏しくなり、何に対しても興味を示さなくなります。一見すると「ひどいうつ状態」に見えますが、本人は悲しんでいるというより、感情を動かすエネルギー自体が消失しているような状態です。
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仮面様顔貌(かめんようがんぼう): 顔の筋肉がこわばり、まばたきも減るため、無表情になります。じっと一点を見つめるような独特の表情(凝視)になることもあります。
当てはまることが多すぎて「なぜ、あんなに動きが悪かったのか」「なぜ、認知症だけでは説明がつかない変化があったのか」 その答えが、ようやくこの病名によって繋がった瞬間でした。

ちなみに、この病名は英語の Progressive Supranuclear Palsy の頭文字をとって PSP と呼ばれています。
日本語では「進行性核上性麻痺」と言いますが、簡単に言うと**「少しずつ進行し(Progressive)、脳の深い部分の指令系統に支障が出て(Supranuclear)、体が思うように動かせなくなる(Palsy)病気」**という意味です。
進行性核上性麻痺(PSP)発見・診断チェックリスト
同じ悩みを持つ方が「うちもこれに当てはまるかも?」とチェックできるような、**PSPの詳しい診断基準(特徴的な症状)**を表にまとめました。
これは専門的には「MDS-PSP診断基準」などの難しい指標がベースになりますが、分かりやすい言葉で整理しています。
| 症状のカテゴリー | 具体的な特徴(診断の目安) |
| 1. 目の動きの異常 | 上下の眼球運動障害。 特に「下を見る」のが難しくなり、足元が見えにくいため階段が怖くなります。 |
| 2. 姿勢と転倒 | 初期からの転倒。 踏ん張りがきかず、丸太が倒れるように「後ろへ」ひっくり返ることが多いです。 |
| 3. 歩行の異常 | 突進歩行。 歩き出すと止まれなくなったり、逆に最初の一歩が出ない「すくみ足」が見られます。 |
| 4. 動作の緩慢さ | 体幹(体の中心)が硬くなり、方向転換がスムーズにできなくなります。 |
| 5. 嚥下・構音障害 | 早い段階からの「むせ」や飲み込みにくさ。 また、言葉が話しにくくなる(ろれつが回らない)こともあります。 |
| 6. 精神・認知機能 | アパシー(意欲低下)。 感情が乏しくなったり、逆に感情の抑制がきかず急に怒り出したりします。 |
まとめ
今回、診断を受けて初めて、私たちは「進行性核上性麻痺」という病気の存在を知りました。
この病気は非常に気づきにくく、最初は認知症やパーキンソン病と誤解されることも少なくありません。しかし、認知症に加えて身体的な異変が重なるこの病気の介護負担は、家族にとって想像を絶するほど大きなものです。
これらの症状がすべて一度に出るわけではありません。義母の場合も、最初は『ただの物忘れ』から始まり、気づけば『突進歩行』や『無表情(感情麻痺)』が重なっていきました。
転倒しやすさや目の動きの違和感など、**『認知症だけでは説明がつかない体の異変』**がひとつでもあれば、脳神経内科などの専門医に相談することをお勧めします。
もし、ご家族の様子に同じような違和感を抱いている方がいれば、専門医を受診してほしいと思います。正しい診断名がつくことは、適切なケアや支援を受けるための第一歩となります。
現在は確定診断を経て、この病気と向き合う新しい介護生活が始まっています。その後の変化や日々の工夫についても、少しずつ綴っていければと思います。

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